暮れたら、泊って行き給え」
「そうしちゃいられねえんだよ、おいらはこれから人を探さなくちゃあならねえ」
「誰を?」
「そのお銀様という人と、それから……もう一人の人間を、今晩は夜通しかかっても探して帰らなくちゃあならねえ」
「それは、よした方がいいぞ、君」
「どうして」
「どうしてたって、夜は危険だよ、夜歩きをするのはあぶない」
「あぶねえことがあるもんか」
と米友が呟《つぶや》いて、よけいなお節介を言う人だという眼を以て見る。それをおだやかに、
「いや、このごろは、この静かな湖畔の町にも、相当に殺気が立っているから、夜歩きはやめた方がいい。君も知ってるだろう、このごろ、江戸の老中といって、権勢のすばらしいお役所から、役人が出張って、土地の検査をして歩いているのだ」
「うむ」
「その検査ぶりが不公平だというんで、人民が動揺している」
「うむ」
「それから君、姉川の方面では、水争いがはじまっているのだ、百姓たちが、おのおの自分の田へ水が引きたいといって、血の雨を降らさんばかりに騒いでいる」
「それは知ってる」
「それからまた、この土地に絹の会所があって、そこの頭株に大金持がいて、そいつが横暴だといって、恨んで火をつけようとする奴が潜入している」
「え、火放《ひつ》けが来ているのか」
「そうだ、だから、今晩あたり、焼討ちがないとはいわれない」
「焼討ちがかい」
「うむ、火事があるかも知れない。そんなようなわけで、他国の者にはわかるまいが、この長浜の町は、外見の穏かなわりに、内部に殺気が籠《こも》っているというわけだから、うっかり夜なんぞ出歩くのはあぶないというのだ。よって、君は今晩素直にここへ泊るか、そうでなければ、長浜の町へ出ないで、ほかの道を通って胆吹へ帰るなら帰り給え」
 青嵐の言ってくれることは穏かで、そうして親切です。だが、どうも米友の頭には、それほどに響かないものがある。
「せっかくだが、そう聞いてみると、いよいよこうしちゃいられねえ、おいらは出かけるよ」
と言って、つと立ち上って、杖槍に手をかけた気勢、とどむべくもなしと見たものですから、
「じゃあ、大事にして行き給え、近いうち拙者は君たちの胆吹王国をたずねてみるよ」
「ああ、いつでも来なよ」
と言い捨てて、米友は早くもこの庫裡《くり》を飛び出してしまいました。

         百九十

 米友のあわた
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