か、こいつに出られた日には、魚族よりは漁師の生活問題だ」
と言いながら、再応、米友の眼前に突きつけたものですから、
「ふむ、エライ奴だなア」
「ある意味から言えばエライにはエライ奴だよ、こいつが威力を振うと、日本一の大湖の魚族が根絶する!」
「うむ」
「今、京都に新撰組というのがあるが、それが、このカムルチの存在とよく似ている、いや、新撰組の存在は時勢の必要上、必ずしも悪魚の存在とは言えまいがな、あれなどはまだ正直な方だが、世間には、相当の合法的機構を備えながら、カムルチの所業をなして、世の良風美俗を害し、自由の名で横暴を行っている奴がある、そいつらの害悪たるやカムルチ以上である、たとえば……」
 米友には、この浪人のかこつけて言うことがよくわからない。新撰組の存在も、それ以上の何とかも、お角さん同様、米友の耳には入らないが、ただ、
「うむ、人間の中にも、こういう奴がいるよ、こういう奴が……」
と言って、ひとり呑込みをしました。
 その時、寺の玄関の方で、人のおとなうような声がしましたけれど、二人は話に油が乗って、それには気がつきませんでした。

         百八十八

 玄関におとなう声があったらしいのを、二人は炉辺の話の興にのって、それにはトンと気がつかず、「人間の中にもこういう奴がいるよ、こういう奴が……」と言った米友の思い入れを、青嵐は我が意を得たりとばかり受取って(この浪人の名を暫く仮りに青嵐と呼んで置く)、
「うむ、その通りだ、悪い奴がはびこると迷惑をするのは善い奴だ、いったい、悪い奴というものは征伐されるためにこの世に存在しているものなんだが、善い奴は得て事を好みたがらないから、それで隠れたがる、そうなると、悪い奴はいよいよいい気になって、増長|跋扈《ばっこ》する、人間ばかりじゃない、金銭に於てもそうだ、悪貨は良貨を駆逐すといって……」
 青嵐居士は、ここまで論じかけたが、これは相手にとって少し理窟っぽいと思い直したと見え、怪魚をビクにしまい込んで、
「明日になったら、早速ひとつ漁師共に話して、こいつの退治にとりかからせることだ。それはそれとして、君に夕飯を御馳走してあげるから、君も働き給え」
 こうして、青嵐は手を洗いに行き、米友もそれぞれ夕餉《ゆうげ》の仕度の手伝いにとりかかりましたが、生活ぶりが単純であるだけに、あんまり手数もかからず、釣り
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