合、名木の一つ松を見るというよりも、その松の下の大景気に眼を奪われるの有様でした。
四明ヶ岳を蹴落され、坂本さしてほうほうの体《てい》で下りついて来たよたとん[#「よたとん」に傍点]と金茶も、ちょうどこの時分に、陸路を唐崎浜まで来合わせておりました。よたとん[#「よたとん」に傍点]も、金茶も、お角さんのこの騒ぎを耳にしないではないが、そこは通人のことで、よたとん[#「よたとん」に傍点]の如きは、かえって苦い面をして、田舎大尽のあくどい馬鹿騒ぎ、見たくもないというように、そちらへは振向きもせずに、番所のおやじに向って松の木ぶりと枝ぶりとを賞《ほ》めていると、金茶が、
「いったい、この松ぁ、何年経っている?」
年数の値ぶみを試みたところが、番所のおやじが無造作《むぞうさ》に、
「はい、一千と八年目になりますさかい」
芽生えから自分が守り育てでもして来たような返事をするから、よたとん[#「よたとん」に傍点]がそれを聞き咎《とが》めて、
「一千と八年――千年の松はいいとして、その八年というのは、いったい、何の目のこ[#「目のこ」に傍点]から来てるんだ」
と、松の番所のおやじに向って、とがめ立てをしました。
百六十九
鶴は千年とか、亀は万年とかいって、大ざっぱに老松の齢を千年だときめてしまうことは、非科学的ではあるが、観念的には許されるとして、その千年の下へ、八年がくっついたから、それで、よたとん[#「よたとん」に傍点]が聞き咎めたのであります。
千年は千年でよい、千年の松は千年の松のみどりでよろしいが、一千〇八年という端数がついてみると、相当に数学的根拠と、植物学上の実験を催促しなければならない段取りになったから、よたとん[#「よたとん」に傍点]が聞き咎めると、松の番所のおやじはすましたもので、
「はい、松というものは、千年経ちますると、枝がはじめて地につくものでござりましてな、私は長らくこの松の御番をつとめておりますが、この松の枝があの通り地につきましてから、これで、指折り数えてみると、八年目になりましてな、じゃによって、この松の樹齢は一千と八年になりますさかい」
「そうか」
その説明を聞くと、よたとん[#「よたとん」に傍点]がかえって油揚《あぶらげ》をさらわれたような面《かお》をしました。
さすがのよたとん[#「よたとん」に傍点]も、
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