六
南条力がこう言ってよたとん[#「よたとん」に傍点]を睨《にら》みつけると、五十嵐甲子雄も、おさえ難い義憤を感じていたと見えて、
「いかにもいかにも、あれだけの人物を、単にただ日傭取《ひようと》りのお雇い壮士のようにこき卸すのは、近藤に対する侮辱のみではない、天下の豪傑に対する冒涜《ぼうとく》だ。単に金が貰いたいだけで、あれだけの働きができるか、そこには意気もあり、然諾もあり、義勇もあり、犠牲の念もあって、身を忘れて許すものがなければできることではない。それを貴様は、単に金銭目当てだけで動いているようにこき卸している。我々は近藤の同志ではない、むしろ、彼等が跋扈《ばっこ》して、勤王の志士を迫害することを憎み憎んでいる者なのだが、さりとて彼等の胆勇は敵ながら尊敬せざるを得ん、幕臣旗本がおびえきって眠っているうちに、彼等だけが関東男児の意気を示していることは敬服に堪えんのだ。然《しか》るに貴様は同郷であると言いながら、勇士をさように侮辱する、許し難い、その指の恰好《かっこう》はそりゃ何だ」
よたとん[#「よたとん」に傍点]が阿弥陀様のするような変な形をしていた指先を、五十嵐がそのまま逆にとって捻《ね》じ上げました。
「アイテテ、アイテテ」
よたとん[#「よたとん」に傍点]は非常に痛そうな面《かお》をしてもがく。五十嵐も、少々の痛みを与えてやるだけのつもりであったものですから、そのまま突き放すと、よたとん[#「よたとん」に傍点]がよろよろっとよろけました。
口ほどにもなく、あんまり弱腰だものですから、五十嵐もいたずら心が手伝って、つい弱腰をはたと蹴ると、よたとん[#「よたとん」に傍点]は、
「あっ!」
とひっくりかえると共に、急勾配になっていた草原を、俵を転がすようにころころと、とめどもなく転がり落ちて行くのです。
しかし、ここは落ちたところでカヤトのスロープで、千仭《せんじん》の谷へ転がるという危険はないから、笑って見ている。
坂本竜馬は、転がり落ちて行くよたとん[#「よたとん」に傍点]の姿を、憫笑《びんしょう》しながら言いました、
「とんだ剽軽者《ひょうきんもの》である、変な出しゃばりおやじもあったものだ、近藤勇の同郷人だと口走っていたようだが、世間には、自分の同郷人だと見ると、無暗に賞《ほ》め立て担ぎ上げて騒ぐ奴と、それから、今のおやじのように、ムキ
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