負はこれから、まず腹をこしらえてからのこと、それには鼻の先へお誂向《あつらえむ》きのこの鍋――これをひとつ御馳走にあずかっての上で……
炉辺にあり合わす五郎八茶碗をとって、七兵衛がその鍋の中から、ものをよそりにかかりました。
「何だい、これは、食物には違えねえが、異体《えたい》が知れねえ」
その鍋の中のものが、名状すべからざる煮物なので、七兵衛も躊躇《ちゅうちょ》しました。だが、結句、蕨《わらび》の根だの、芋の屑だのを切り込んだ一種の雑炊《ぞうすい》であることをたしかめてみて、一箸入れてみたが、
「まずい――よくまあ、こうまずいものが食えたもんだ」
七兵衛自身もまずい物は食いつけているが、この雑炊のまずさ加減には、舌を振《ふる》ったらしい。
「そうだ、奥州は饑饉《ききん》の名所だってえ話を聞いている、こりゃ、饑饉時の食物だ、餓鬼のつもりで有難く御馳走になっちまえ」
東北大いに餓えたり!
そりゃ、饑饉ということは、関東にも、上方にもある! あるにはあるけれども、東北の饑饉に比べると、こっちの饑饉はお大名だと、子供の時に聞いたことがある。
ある人が、三町ばかり歩いているうちに三十五の行倒人《ゆきだおれ》を見たが、その後では数えきれないから飛び越えて歩いた。あるところでは、一つに二百五十人ずつ入れる穴を掘って、次から次と餓死人を埋めていった。一つの領内で、七万八万の餓死人を出しているのは珍しくない。旅人が家を叩いて見ると、一家みんな餓え死んで、年寄ばかりがひとり虫の息になっている。水を飲もうと井戸に行ったが、ハネ釣瓶《つるべ》が動かない。のぞいて見ると、井戸の中が餓死の人でいっぱいであった――
なんというすさまじい饑饉の物語をよく聞かされた。
それを思うと、この食物ですら、あだにはならない。眼をつぶってかき込んだが、食べてみるとすき腹へ相当に納まる。
七兵衛は、無断で、できるだけの御馳走にあずかってしまい、さてこれから追手のかかっている身の振り方だが、こうなってみると、無暗にあわてて走ってみるのも気が利《き》かない。休めるうちに休めるだけ休んで置くがよい。それには――と七兵衛は、若衆《わかいしゅ》が飛び出した次の間に、まだ蒲団《ふとん》がそのまま敷きっぱなしにされてあるのに眼をくれました。
百五十四
そこで七兵衛は、草鞋《わらじ》
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