で、
「若衆さん、今この一つ家の前で見て来たが、あの人間の喰い散らかし――あの土饅頭《どまんじゅう》が、あれが黒塚というやつではねえのかね」
「ど、どういたしましてなっし」
 さすがに、若い男のやや周章《あわ》てて何か弁明に出でようとした時に、戸外がけたたましくバタバタと烈しい人の足音で、
「カ、カ、カン作どん、オ、オ、オニが出たゾウ」
 必死に戸へすがりついた人の声。

         百五十二

 七兵衛も煙にまかれてしまいました。
 いったい、安達の鬼は外にいるか、内にいるのか、鬼の化け物であるべきはずの一つ家のあるじが、人のいい若者で、かえって旅人をとらえて鬼物語を誘発する。それにいいかげん悩まされていると、今度は鬼が出たといって助けを求むる声が外から起る。これでは、鬼同士が全く八百長芝居をしているようなものだ。
 だが、芝居とすれば、越後伝吉でも、塩原太助でも、立派につとまりそうなこの家の中の若衆《わかいしゅ》は、その声を聞くと、早速立ち上って、戸をあけてやりました。そうすると、その朋輩らしい同じ年頃の若い男が、面《かお》の色を変えて転がりこんで来て、
「とうとう、鬼に出られて、馬さ喰われちゃったでなっし、客人のこと、どうなったかわからねえが、夢中になって逃げて来たぞう」
「そいつは、菊どん、いがねえ、この夜中に、馬なんぞ出しなさるがいがねえ」
「でも、仙台領からの頼みで、どうでも馬さ一匹頼んで飛ばさにゃならねえというお客様がござってなっし」
「そいつぁ、どうも」
「で、鬼さ出るちうて断わり申しただが、鬼さ出ようと、蛇《じゃ》さ出ようと、大切の罪人を仙台領から追いこんだのだなっし、仙台様と南部様の御威勢で、鬼が怖《こわ》いということあるかと、お客人の鼻息がめっぽう荒いもんでなっし」
「そうかや、そいつぁ、どうもならねえなっし」
「夜中に、馬さ出すと、案《あん》の定《じょう》、大っ原で鬼が出やんした――わっしゃ命からがら逃げて来やしたが、お客人のこたあ、どうなったかわからねえなっし」
「それじゃ、どうなったかわからねえで済ましちゃいられねえぞ、客人さ怪我あらせちゃあ申しわけがあるめえなっし」
「そのお客人さ、道中差を抜いて、鬼さきってやしたがね――なかなかお客人も強い人でがんした」
「なんしろ、こうしちゃいられねえ、人を集めて、お迎《むけ》えに行ってみざあ
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