駒井が黙っていると、気取って山出しのおれを軽蔑している――柳田の頭は、ようやく反感から僻《ひが》みの方へ傾いて、
「おれは断然、この船長は好きになれない!」
 柳田の頭へ来た印象はこれです。同時に、
「田山白雲氏に対しては、一見、先生と言って尊敬するに堪えるが、この若い毛唐まがいの船長なるものは、おれの口から進んで追従《ついしょう》をいう気にはなれない」
 こういったような空気が湧き出して来たのを、お松が早くも見てとりました。

         百四十六

 そんなような初対面の空気のままで、柳田平治は船長室を引下りました。
 それから船中を往来するごとに、柳田の不快はことごとに増すばかりでした。不快といっても、特に理由があるわけではない、誰もこの男を特に冷遇したり、嘲笑したりする人なんぞは一人もあるのではないが、平治が船の中を歩くと、行き逢うほどの人が、その長い刀を見て変な目つきをする。それが八分の冷笑を含んでいるかのように、平治には受取れてならない。
 単にこの長い刀を眼の敵《かたき》にするのみではない、自分の歩きっぷりがギスギスしているといって、あとで指差して笑っているような気持がする。それにこの中の水夫共までが、みんなダンブクロを穿いているのも癪《しゃく》だ。船そのものの洋式はまあやむを得ないとしても、船長をはじめ、衣裳風采まで日本人のくせに、毛唐化せねばならぬ理窟があるか。
 こんな船の中に、どうして、あの豪傑肌の田山白雲先生が一緒におられるのか、それがそもそも一つの不思議でならない。
 田山白雲のための船の一室におさめられた柳田平治は、そこで、彼は長い刀を枕にして、ゴロリと横になって、船室の天井に向けて太い息をふっと吹きかけ、
「いやだ、こんなところに長居をしたくない、そう思うと一刻もいやだ――本来、おれは江戸へ出て武者修行をするつもりで来たのだ、こんな毛唐まがいの船の中へ捕虜にされるつもりで来たのではない」
 こう言って、奮然として起き、枕とした例の長い刀を取り上げてみたが、さすがにまた思い直さざるを得ざるところのものがある。
「第一、手形がない」
 道中唯一の旅行券を渡頭《わたしば》で、いい気になって居合を抜いた瞬間に、何者にか抜き取られてしまっている。ちぇッ。
「第二、田山先生に済まない」
 駈落者護衛の使命だけは無事に果したが、まだ、少なくとも
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