こんでいる何物をか、よく見ると、それは一箇の般若《はんにゃ》の面に相違ない。そこでなんだか一種の幻怪味に襲われながら、
「それは、見つかるだろう」
「そうかしら、あたいは、どうもそれが覚束《おぼつか》ないと思うんだが」
「見つかるよ、心配し給うな」
柳田平治は、七兵衛おやじの何ものであるかを知らない。また、この少年の何ものであるかを知らない。だが、田山白雲が、この二人の駈落者のほかに、まだたしかに尋ねる人があるらしいことだけは、相当に合点《がてん》している。その者がいわゆる七兵衛おやじなる者だろうか。果して田山白雲が、この二人の駈落者を突留め得た如く、七兵衛おやじなるものを捕え得るかどうかということには、全然当りがついていない。しかし、この舟の者が、こうまで心配していることを見計らって、相当の気休めを言ったつもりなのだろうが、それを肯《うけが》わない清澄の茂太郎が、
「そうはいかないよ、君、そう君の考えるように簡単に見つかりませんよ、七兵衛おやじは……」
意外千万にも、このこまっちゃくれた少年はこう言って、柳田の一片の好意を否定してかかりましたから、ここでも柳田平治は、ちょっと毒気を抜かれて、
「ナニ、つかまるよ、田山白雲先生は豪傑だから、直ぐ捉まえて縛って連れて来るよ、安心し給え」
こう言うと、この幻怪なる少年が、いよいよ承知しませんでした。
「君、それは違うよ、田山先生は、マドロス君とお嬢さんを捉まえに行ったのは本当です、あの二人は駈落者《かけおちもの》なんだから、それを捉まえて逃さないように、場合によっては縛っても来ようけれど、七兵衛おやじは捉まえに行くんじゃない、探しに行ったんだよ」
「そうか、それにしたって、大したことはないよ」
この幻怪な少年に抑留されたために、柳田平治は殿《しんがり》となって、通ろうとしたお松の船室への行方を見失ってしまいました。
「キャビンへいらっしゃい、案内してあげます」
それを心得た清澄の茂太郎は、案内顔に先に立ったが、
「その刀、持って上げましょう」
甲板から船室へ下るには、つかえそうな長い刀。
茂太郎も、最初から、その長い刀に興味を持っておりました。
百四十五
それから、マドロスと、兵部の娘とは、体《てい》のいい監禁を施して置いて、その夜は一晩無事に寝《やす》み、翌朝、お松が柳田平治を案内
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