た。
そこで、ぷっつりと得意の鼻唄を断ち切って、悲愴きわまりなき表情を満面に漲《みなぎ》らしてみたが、やがて櫓拍子は荒らかに一転換を試みて、
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さっさ、押せ押せ
下関までも
押せば
湊《みなと》が近くなる
さっさ、押せ押せ
それ押せ――
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実に荒っぽい唄を、ぶっ切って投げ出すような調子に変りました。
唄が荒くなるにつれて、櫓拍子もまた荒くなるのです。
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さっさ、押せ押せ
下関までも
押せば
湊が近くなる
さっさ、押せ押せ
[#ここで字下げ終わり]
以前の調子に比べると、鼻息も、櫓拍子のリズムも、まるで自暴《やけ》そのもののようです。
自然、小舟の動揺も、以前よりは甚《はなは》だ烈しい。しかし、抜からぬ面で舳先《へさき》に安坐した弁信法師の容態というものは、それは相変らず抜からぬものであり、穏かなものであると言わなければなりません。
それからまた、湖面の波風そのものも、以前に変らず、いとも静かなものだと申さずにはおられません。
湖も、波も、人も、舟も、すべて穏かであるのに、漕ぎ手だけが突変して荒っぽいものになってしまい、
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船頭かわいや
おんどの瀬戸で
こらさ
一丈五尺の
櫓がしわる
さっさ、押せ押せ
下関までも
さっさ、押せ押せ
さっさ、押せ押せ
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そのたびに、櫓拍子が荒れるし、舟が動揺する。最初に、十七姫御が……と言って、古城の岸から漕ぎ出された時は、漕ぎ出されたというよりも寧《むし》ろ、辷《すべ》り出したような滑らかさで、櫓拍子もいと穏かなものでありましたのに、この鼻唄が半ば過ぎると急に、序破急が乱れ出し、唄が変ると共に呼吸が荒くなり、櫓拍子がかわり、舟が動揺し出しました。
舟というものは、風と波とに弄《もてあそ》ばれることはあるが、風も波も静かなのに、人間が波瀾を起して、現在その身を托している舟そのものを弄ぼうということはあり得ないことですから、その動揺の烈しさにつれて、さすがの弁信法師も、つい堪りかねたと見えて、
「米友さん――どうしました、舟の漕ぎ方が少し荒いようですね」
さりとて、弁信も特に狼狽《ろうばい》仰天して、これを言ったのではありません。相変らず舟の一方に安坐して、抜からぬ面《かお》で言いました。
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