ましょうね、誰も悪口を言う相手がないじゃないの」
「相手がなければ、悪口を言わんでもいい」
「でも、悪口を言わなければ、話の種がないじゃありませんか」
「話の種というのは、悪口に限ったわけのものじゃあるまい、何か罪のない、面白い世間話をし給え」
「罪のない話なんて、ちっとも面白かないわ、罪があるから世間話の種にもなるんじゃないの――では、わたし、自分のおのろけ[#「おのろけ」に傍点]でも言って、あなたに聞いていただこうかしら」
百二十六
「結構だね、大いにやり給え」
と、兵馬もこのところ、大いにさばけてこう出たのに、女がかえって尻込みをして、
「よしましょうよ」
「よさなくってもいいから大いにやれ」
「いやです。第一、あなた、こうして山小屋の中へ木屑同様におっぽり出されて、手の出し手もない女が、おのろけもないじゃありませんか」
「今はなくても、昔はあったろう、これからまたあるだろう、それを盛んに並べて見給え」
「昔を言えばねえ、よしんばあったところで、おそらく、追いのろけは気が利《き》かない骨頂ですからねえ。これからあるだろうとおっしゃったって、あなた、未来のおのろけを語るほどおめでたい話もありませんねえ。いったい、どちらにしましても、芸妓《げいしゃ》のおのろけなんていうものは、おのろけの中に入りません」
「悪口もいけず、惚気《のろけ》もいけない――」
「ですから、あなたのを聞かせて頂戴な、素人《しろうと》のお惚気は本当のお惚気なのよ、それを承りましょう」
「僕に、そんなものはない」
「ないことないでしょう……仏頂寺さんから種が上っています」
「亡くなっている仏頂寺を証人にとれば何でも言える」
「あなた、ずいぶん、江戸の吉原で苦労をなさったそうですね」
「そんなことはないよ」
「ないことがあるもんですか――いくらお体裁を飾っても、わたしたちの目から見れば、一度でも遊んだことのある人と、ない人とは、ちゃんとわかりますよ」
「見るように見る人の勝手だ」
「あなたという方もわからない方ね、一度でも遊んだ覚えがあるくせに、いやに角《かど》がとれない」
「何でもいい、要するに、こっちには、面白くおかしく話して聞かせるほどの世間話も、身の上話もないが、君の方は世間慣れているから、種があるだろう、何でも、心任せに話してくれないか、修行中の僕等は、なんでもかで
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