置き場もない思いをして呆然《ぼうぜん》と立ちました。
少し離れたところの、樅《もみ》の木蔭に隠れていた芸妓《げいしゃ》の福松は、兵馬が立戻って来ることの手間がかかり過ぎることに気を揉《も》み出し、
「相手が悪いから心配だわ」
秋草の小鳥峠の十字路から、かなり離れたところの木立の蔭で、福松がひとり気を揉んでいるのは、なるほど相手が悪い。もし、先方で気取られてしまった日には、宇津木さんも袖が振りきれない。捉まってしまった日には、しつこくからみつかれてどうにもなるまい。
宇津木さんという方は、お若いに似合わず、剣術の腕にかけては素晴らしいとの評判は、この高山で聞いているけれど、相手のあの仏頂寺という悪侍が、一筋縄や二筋縄のアクではない。
宇津木さん、早く戻って来て下さればいい、こう思って芸妓の福松は、木蔭からちょっと首を出して、秋草の小鳥峠の十字路の方を見透そうとしたけれど、目が届きません。
さりとて、へたに離れてこのわたしというものが、仏頂寺に見つけられでもしたら、それこそ最後――
福松は、それを懸念《けねん》しながら木蔭を出たり離れたりして、兵馬の安否を気遣《きづか》いましたけれど、兵馬から音沙汰《おとさた》がなく、そうかといって、仏頂寺との間に、見つけた、見つけられた、という問題を起しているような形勢は少しもない。
それだけに、福松はまたいっそう気を揉んで、隠れがの樅の木立の下を一尺離れて見たのが二尺となり、三尺となり、一間となり、二間となって見たが、なんらの動揺が起らないのです。
とうとう我慢しきれなくなって、三間と、五間と、這《は》うようにして叢《くさむら》の中を廻って見ますと、秋草の中に立っている宇津木兵馬の姿をたしかに認めました。
呆然として、ただ立ち尽しているのです。
笠も、合羽もつけないで、黒い紋附に、旅装い甲斐甲斐しい宇津木兵馬の立ち姿が、秋草の乱れた中に立ち尽していることだけは、間違いなく認められたものですから、福松は我を忘れて呼びかけようとして躊躇しました。
まだいけない。ああして、宇津木さんも、じっと様子を見て思案してらっしゃる。わたしがここで大きな声を出した日には、ブチこわしになるかも知れない。
では、ここでもう少し、様子を見届けて……
福松はこう思って、一心に叢の蔭から兵馬の立ち姿を見つめていると、兵馬はじっとただ地
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