えても、あれからの自分の足で、奥州の安達ヶ原まで走れるはずはないから、いずれ江戸府内、近郊の寺に相違あるまいが、それにしても墓地が広大だと思わざるを得ない。
いずれにしても、この墓地を突切って、垣根の破れでも壊して、往還へ出てしまえばこっちのもの。この墓地の中で怪しまれてはつまらない。幸いなことには、やっぱり暗夜で、誰も神尾を怪しむために、深夜この墓地に待構えている人はない。神尾は広い墓地の中を縦横に歩いて、その出口を求めようとしたが、ありそうでなかなかない。
墓地の中をグルグルめぐりしているうちに、はたとその行手に立ちふさがったものがありました。雲突くばかりの大入道が一つ。これにはギョッとして、思わずタジタジとなったが、改めてよく眼を定めて見直すと、これは巨大なる石の地蔵尊の坐像であったことを知って、いささか力抜けがしました。
右の巨大なる石の地蔵尊が安坐しているその膝元には、まだ消えやらぬ香煙が盛んに立ちのぼり、供えられた線香の量が多いものだから、香火が紅々と燃え立つようになっている。
神尾は、変なところへ来たものだという感じがしました。
百十四
神尾主膳は江戸に生れたけれど、江戸を知らない。知っているところは知り過ぎるほど知っているが、知らないところは田舎者《いなかもの》よりも知っていない。
江戸の場末といっても、自分の足のつづく限りに於て、こんな荒涼なところがあろうとは思いがけなかった。夜だから、無論その荒涼にも割引をして見る必要はあるには相違ないが、それにしてもこれはヒドイ。
だが、まだ石の大きな地蔵の像が、自分の上にのしかかった入道のように見えてならない。その荒涼たるに拘らず、大地蔵の膝元には、右の如く香煙が濛々《もうもう》として立ちのぼり、香が火を吐いて盛んなるところを見ると、宵の口まで人の参詣が続いていたに相違ない。
いったいこれはどこの何というところだ。ただいま身を忍ばしていたのは法華寺だが、この墓地の区切りの散漫なところを以て見ると、あの一寺だけの墓地ではないらしい。こちらにも相当な寺の棟らしいのが見える。してみると共同墓地かな。両国の回向院《えこういん》ででもあるのかな。回向院ならば自分もよく知っている、どう見直しても回向院ではない。第一、回向院は寺とはいえ、もっと和気がある。回向院の墓地にはもっとよく手入
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