目です、わたしの心意気で、あなたに貢《みつ》ぐお金なのですから、お受けにならなければ男が立たないってことになるのよ」
「いったい、君はどうしてこれだけの金を持っているのだ、不相応の金だ、君にとっても不相応だし、拙者にとっても不相応だ――これはどこからどうして出た金だ、その出所がわからぬ間は、拙者として、めったに手に触れるわけには参らん」
「そうおいでなさるだろうと思っていましたわ。それは、わたしが持って来たからといって、わたしのお金でないことはわかりきっていますわねえ。わたし風情《ふぜい》で、これだけのお金をふだんこうして肌身につけていられるくらいなら、こんな稼業《かぎょう》をしておりません、これはお他人様《ひとさま》のお宝なのよ。でも、御安心くださいまし、お他人様のお宝には違いありませんけれども、それは、いわばわたしたちに授かりものなんですから、二人で思うように使ってしまってかまわないたちのお金なんだから……そこでわたしのものはあなたの物、あなたの物はわたしの物という寸法になるのよ、嬉しかなくって?」
「なんだか、君の言うことは論理がようわからん――苟《いやし》くも自分の所有に属せざるものを、無断で勝手に使用して差支えないということはいずれの時、いずれの国の掟《おきて》にもない」
「ところが、あなた、この国の今日の場合には、ちょうど誂向《あつらえむ》きにそういう掟が出来ているのですから、豪勢でしょう――そんなことはどうでもいいわ、手っとり早く、打明けてしまいましょう、実はねえ、宇津木さん、このお宝は、例のそら――お蘭さんのお金なんですよ」
「お蘭どのの?」
「え、え、お蘭さんのうちにあったのを、がんりき[#「がんりき」に傍点]の奴がそっくりわたしのところへ持って来て、預けっぱなし、それなのよ」
「ははあ――」
「ですから、いいでしょう、ちょうど、わたしたちにお使いなさいって天道様が授けて下さったものなのよ、わたしたちが使ってあげる方が、あのお蘭さんや、がんりき[#「がんりき」に傍点]の奴に使わせるより、ぐっと功徳《くどく》になる、またそうでもしてやらなけりゃ、わたしの癪《しゃく》の虫が承知しない」
「ははあ――」
と、兵馬はここで、ちょっと考えさせられました。

         十

 これは、一種異様なお金の出所《でどころ》だ。
 預りものではないが、盗みもの
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