数百、数千の人が団結して侵して来たらどうします」
「その時は、わたしたちのうちの男は鍬《くわ》を捨てて、女はつむぎを投げ捨てて、その外敵を弾《はじ》きかえします」
「してみると、そういう不時の侵入者に対して、平常の用意というものが要りますね――五六十人の敵ならば、有合わす得物《えもの》を取って、応急的に追っぱらいましょうけれど、千人万人の侵入者に対して素手《すで》というわけにはゆきますまい、先方もまた必ず素手でやって来るというわけでもありますまい。必ず、こちらにも、それに要するだけの武器というものを、平生備えて置かなければならないでしょう」
「それは、事業が進み、規模が大きくなるにつれて、自然にその準備が出来るようになります。たとえば部落の中に火事があったとしましても、一軒二軒のうちならば、手桶や盥《たらい》で間に合いましょうけれど、殖えてくれば、非常手桶や竜吐水《りゅうとすい》も備えなければならず、また備える費用もおのずから働き出せて来ようというものです。いつ来るかわからない侵入者のために、あらかじめ備えて置かなければならない必要もありますまい」
「拙者は、そうではないと思う、その非
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