いう女をどうしました」
「は、は、は」
「かわいそうなのは、浅吉という男妾《おとこめかけ》と、それからですね、もう一人……」
「は、は、は」
「それを言うと、またここにいる小娘がムキになることでしょうが、浅吉という男妾ばかりがかわいそうなのではありませんでした、まだ、たしかに一人、闇から闇へ送られたかわいそうなのがあったはずです」
「何をおっしゃるのです、それは、誰のことでございますか」
果してお雪ちゃんが躍起となりました。お雪ちゃんの躍起ぶりが、あまりに真剣であったせいか、今度は竜之助も、は、は、は、という例の軽薄極まる冷笑を浮べませんでした。そこで、お銀様が今度は、お雪ちゃんの方へ向き直って、
「誰だか、わたしは知りませんが、あの時に、たしかに闇から闇へ送られた、かわいそうな人の子が、たった一人はあったはずです」
「それを承りましょう、それを――ほかのこととは違います」
なぜか、お雪ちゃんが、お銀様の喧嘩を買うような気勢にまでいきみ立ったのが、意外でありました。
「聞きたいとおっしゃるならば、言ってみましょう、それを誰よりも早く感づいたのは、あのイヤなおばさんという人でした。そ
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