、一つの巨大なる石門《せきもん》のところに来ました。
「これが、さっきの話の、胆吹の弥三郎の千人窟ですよ」
見上げるばかりの石柱が二つ、夫婦岩《めおといわ》のような形に聳《そび》えていて、その間が船形のうつろになっているその間へ、お銀様がお雪ちゃんを引摺《ひきず》り込みました。
引摺り込んだというのは穏かでないけれども、お雪ちゃんは、そもそもこの人との道づれに全く気が進まないでいるところを、圧倒的に歩かせられたり、毒草を鼻頭にこすりつけられたりして、それでも、どうも、この人のあとを追うことから免れられない引力を感じているところへ、今はもう、この先が地獄になるか、牢屋になるか、真暗闇の石門の前へ来て、ここへはいれと身を以て導かれる。それを拒む力もなく、いやという言葉さえ出ないで、ぐんぐんと引摺られて行くのは、お銀様の手ごめにかかってそうされないでも、事実は、それ以上の力で引摺られて行くのです。
お雪ちゃんは、ついにこの石門の中へと引摺り込まれてしまいました。
「御安心なさい、直ぐにまた明るくなりますよ、そらごらんなさい」
石門の中の真暗な洞窟を二町ばかり歩むと、左手の崖がカッと開
前へ
次へ
全208ページ中77ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング