山とても随分あちらの高山峻嶺に劣りはしないとこう考えますから、わたくしも、その心構えで参詣してまいりたいと思います。案内者でございますか。私としましては別段、案内者は頼みませんでも、山にしたがってまいりさえすれば、あぶないことはなかろうと存じます。登山路の道筋だけはよく承って置きました。これから参りますと、ほどなく女一権現というのがあるそうでございます、それを過ぎますと、北に弥勒菩薩《みろくぼさつ》のお堂がございまして、あの辺には一帯に松柏の類が繁茂いたし、胆吹名代の薬草のございますのも、その辺であると伺いました。それから登りますと三所権現があり、それをまた十町登りますると鞠場《まりば》というのへ出ると承りました。その鞠場より上へは女人は登ることを止められてあるそうでございます。それからは巌根こごしき山坂を越えて、絶頂が弥勒というところ、そこへ行くと、時ならぬ風は飄忽《ひょうこつ》として起り、且つ止まり、人の胆を冷すそうでございますが、一体にこの胆吹のお山は気象の変化の劇《はげ》しい山だそうでございまして、ことに怖るべきは、頂上の疾風だなんぞと人様が申しますから、その辺もずいぶん用心を
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