ない、ただ会わせて下さらないだけならいいけれども、もしかして、あなたは、わたしをあの人から遠ざけようとなさるのじゃないかしら、それも、あなた一流の親切から出でてそうなさる、意地悪でなさるのではないことはよくわかっていますけれども、そんなにまで、わたしというものが、たよりない、意気地ない人なのでしょうか。不破の関で鈴慕の曲を遠音に聞いて、それからわたしは、あなたの呼びにいらっしゃるのを待ちきれませんから、自分で行って見ますと、鈴慕の主はいないし、関守さんもなんだか空とぼけておいでになって、わたしの聞きたいわけを答えては下さいません。ただあの紅々《あかあか》と燃えた炉の中に、尺八の燃え残りだけが無残に残っておりました。それから、わからないお嬢様が、思い通りの世界を作ってみたいとおっしゃって、ここへ土地をお求めになり、住居を建てるから、わたしも仲間に入れとおっしゃる。それはよいことだと弁信さん、あなたも賛成なさいますから、あなたを信じて、ここへこうして三日目になりますけれど……」
 ここでも、お雪ちゃんが、弁信の株を奪って、一息にこれだけの恨みつらみを述べたててしまいました。
「よくわかりま
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