かつ》ぎ出したりするものまで見えましたが、鳥の姿がまた森かげに隠れて見えなくなってしまいました。しかし、村人がまだ騒がしい気分を以て走り廻り、立惑うているところを以て見ると、大鷲を射留めたものでも、捕縛したものでもないことはよくわかります。
 こうして、やや長いこと、おそらくは何とか解決のつくまでは、二人はこの場の光景から眼をはなせないことになっていると、けたたましく、前庭の木戸口から人の息せき切った発音があって、
「申し上げます、只今、村の人が大勢これへ押しかけて参りまして、生捕った鷲の子を、いくらでもいいから、こちらの奥様に買っていただきたい、買っていただけなければ、暫く預かっていただきたいなんぞと申して、これへ持って参りました、いかが取計らいましょうか」
 この報告を聞くと、お銀様が、だから言わないこっちゃない――と言いたそうな表情で立ち上り、
「今、そちらへ参ります」

         六

 お銀様が急に立去った後、急にお雪ちゃんは、何かとそぐわない気持で、ぼんやりしていると、後ろから、
「お雪ちゃん――」
「おや、弁信さんじゃありません? 弁信さん、あなたもあんまりですね
前へ 次へ
全208ページ中47ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング