、押しつ押されつ、それっきりになったあの二人の山狩が、つかまえた鷲の子のことでありました。
それが思い浮ぶと、お銀様は覆面の中で二三度うなずいて、
「わかりました、わかりました」
と、さきほどお雪ちゃんが言った通りに鸚鵡返《おうむがえ》しをして、
「あの鳥が村へ下りたのは、自分の子を取戻したいために下りたのでございます」
「どうして、そんなことがおわかりになりますか」
と、その以後ばかりを知って、以前を知らないお雪ちゃんには、以後を知らず、以前を体験しているお銀様の言うことが、全くわかりませんでしたけれど、実はこの場合、二人の実見を合わせて、はじめて完全な全体観が出来上るのでありました。お銀様がそれを説明することは雑作もないことでした。
「それはね、ごらんなさる通り、あの大きな鳥は、村里の上を離れないで、村人と追いつ追われつしているでしょう、珍しく鳥の中の王様が人里へ現われたものだから、村の人の騒ぐのは無理はないが、鉄砲の音にも驚かずに、ああして鳥が離れないのは、あれは、村の人に自分の子を捕られたから、それを取戻そうとして覘《ねら》っているのです、わたしはさきほど、村の人がこの鷲の子
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