お頼みしましょう、ここへ少し持って来たのですが」
と言ってお銀様は、抱えて来た小箱の包みを解いて、蓋《ふた》をあけながら、
「これから、この土地を拓《ひら》くについては、相当にお金も要ることとおもいましたから、今日飛脚を甲州へ立ててもらって、お金を取寄せることにしました。とりあえず道中の路用のうちを、お角さんという人から受取って、当座の費用にあてることにしましたが、どうも、土地土地でお金が変るものですから、両替をしなければなりません。それでまた、たった今、あの長浜というところへ使を頼んで、お金の両替をしてもらうことにしましたから、そのうちこまかいのも参るでしょう、とりあえず、このお金を預かって下さい」
と言って、お銀様が無雑作《むぞうさ》に箱の中から摘《つま》み出したのは、幾片《いくひら》かの小判でありました。
「甲州を立つ時に、父がわたしのために路用だと言って、あのお角さんという人に預けたお金を、半分は手附としてこの土地の持主に渡しました、その残りを、わたしがこちらへ来る時にお角さんが渡してくれました、それをまた三つに分けて、あの人にも持たせてやりました、その一つは、いま長浜へ両替に
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