の大鷲は、いったん胆吹のとまり所へついたが、何をか見つけたものだから、また飛び戻って来たのだ、何かこの下の平原で見つけものをしたものだから、それを捕りに来たものらしい。
お雪ちゃんはそう思って鳥の挙動を見守ると、全く物狂わしいように横転、逆転、旋回、飛上、飛下を試みているのが、いよいよ只事とは思われないのです。
恐ろしい鳥、鳥の中での王――あの勢いで人間をさえ攫《さら》って行くことがある。何をあの鳥が地上に見つけ出したのだろう、覘《ねら》われたものこそ災難――
お雪ちゃんはそう思って、下の原野を見おろしたけれど、鳥は中空にあるから見得られるものの、獲物《えもの》がこの眼の下いっぱいの原野のいずれにあるということなどが認められようはずがありません。
鷲が人間を攫うということはいつも聞いている――もし不幸な人間の子が――もしや、米友さん――あの人は小さいから、もしや子供と間違えられて、あの荒鷲の餌食に覘われているようなことはないか。ああして一心に木の根を掘っているところを、後ろから不意にあの大鷲の鋭い爪を立てられるようなことはないか。鷲が大人を攫ったという話はまだ聞かないが、子供を
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