事なんぞは、タカの知れたものじゃありませんか」
「お言葉ですが、あなたばっかりはいけません、あなたを解放してあげることは、為めによくありません」
「どうして」
「どうしてったって、こういう人間に限って、決して日の目のあたるところへ出してはならないのです」
「それは残酷ですね」
「残酷なんて言葉を、あなたも知っていらっしゃるのですか」
「男一匹を、こうして日の目の当らぬところへ永久に閉じ込めて置くなんぞは、残酷でなくて何です」
「閉じ込められて置かれる人の残酷さ加減より、そういう人を解放することの危険さから生ずる残酷の方が幾層倍も怖ろしいから、それでわたしの計らいで、当分ここへ封じ込めて置くのが、どうして悪いのですか」
「悪いな――人の自由を奪うというのは何よりも悪い、ましてだ、自由と解放とのために、新理想の楽土王国を築こうなんぞという女性が、あべこべに人を捉えて、幽囚の身にするなんぞは、矛盾も甚《はなはだ》しい、解放して下さい」
「いけません――あなたをここから出してあげることはいけません、もし何か御用がある節は、こちらから行ってあげて、少しも不自由はおさせ申しませんから、おっしゃって
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