近づく奴等は誰彼の容捨がなく引捕えて、ぴしぴしと縄をかけられるのです。
ですから、混乱の上に、大恐怖が加わりました。
相手が悪い!
全く相手が悪いに相違ない、お代官となれば、小大名のお代官でも大抵、怖《こわ》いものの看板になっている。それが大公儀直通の検地お代官なのだから始末が悪い!
みるみる引っくくられたものが束になって、幾十人というもの縄つきが、田の中にも、道の傍にも押し転がされてしまいました。村の相当の口利《くちき》きがお詫《わ》びに出て来ても文句を言わさず、それもぴしぴしと縛り上げられてしまうのだから手がつけられません。
かかる時、宇治山田の米友はどうした。それだけが一つ、この際の仕合せでありました。米友はこの騒ぎの途端に、表へは出ないで裏へ廻ったのは、お代官の鋭鋒をそれと知って避けたわけではなく、それと知れば、よかれ悪《あ》しかれこの男としては、役人のぴしぴし人見知りなくふん縛る現場へ飛び出して来ずにはいられないのでしたが、米友がそこへ出ないで裏へかけ出したというのは、ひとり難を避けるという気になったのではなく、暴れ出した駄馬を取抑えんがためでありました。米友としては、検地の役人の一行の余憤でこの馬が、イヤというほど尻っぺたをひっぱたかれたから、それでこうして暴れ出して来たのだとは思いもよりません。何かに驚かされて馬が暴れ出したのだが、何がこの馬をこんなに暴れさせたかということの詮索《せんさく》よりも、この際、この通り暴れ出した現場を取抑えることが、第一の急務でなければならないと悟ったのです。
そこで、一途《いちず》に取抑えに向ったけれど、本来、馬を取抑えるということは、向って来る奴を行手に立ち塞がって取抑えることの方が遥かに容易なので、それを追いかけて抑えるという段になっては、かなわないのがあたりまえです。なぜならば、四ツ足と二本の足です。ことに米友のは、その二本の足も一本は不満足なのですから、それで馬と競争はまず覚束《おぼつか》ないと思わなければなりません。
しかし覚ついても、つかなくても、それを追わなければならない急場の形勢でしたから、どうもそのほかに仕方がありません。
群衆の中へ追い込まれて、また更に群衆から驚かされた暴れ馬は、畔道《あぜみち》を、ただもう走れるだけ走っている、その後を米友が懸命に追いかけているのです。ですから、馬が
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