「いったいどうしてそんなに、大根おろしをかきおろしなさるのです」
安直が抜からぬ面《かお》をして、答えて言うことには、
「胆吹の山には昔から、大蛇《おろち》がすんでいやはるさかい、毒気に触れるとどもならんによって、この大根おろしよばれると毒下しになりまんがな。それに胆吹の百草たらいうて、薬草がたんとたんとござりましてな、その薬草の中には毒草もたんとたんとござりますによってな、相手は十八文のお医者はん、いつ、わてらに、その毒草を製して飲ますことやらわからへんがな。そないな時にな、その大根おろしのかきおろしたあん[#「たあん」に傍点]と食べておきますとな、毒消しになりますさかい、ちゃア」
それを聞いて一同がアッと感心しました。プロ亀の如きは、
「さすがに安直先生、お考えが深い、お調子が高い!」
そうすると、村雨女史が、またおてんたらを言いました、
「直さんに会っちゃかなわない」
しかしまた、老功なる、みその浦なめ六は心配しました。
「それはそうとして、この十三樽の大根おろしのかきおろしを持ち運ぶのが容易なことじゃござらんてな、誰がこれを胆吹山まで運搬するこっちゃ」
「そないなこと、いっこう苦になりゃへん、あの山の山元にはキャアゾウ[#「キャアゾウ」に傍点]たらいう親分はんがいやはって、そないな大根おろしのかきおろしを、なんぼでも背負いたがっていなはるさかい」
つまり、胆吹山の山元には、キャアゾウ[#「キャアゾウ」に傍点]という親分がいて、こういう大根おろしを幾駄でも、嬉しがって負いたがっているということになる。
これを聞いて、三ぴん一同が、いよいよ安直の用意周到なるのに敬服しました。
十六
そういうこととは露知らぬ道庵先生は、お角さんから差廻された米友代りの一僕、庄公を召しつれて、ほくほくと柏原の宿《しゅく》を通りかかりました。
胆吹へ登るものとすれば、ことにお銀様や米友が植民地を構えた上平寺の方面から登るとすれば、関ヶ原からでは、この本道へ出ないで、小関から北国街道へ出るのが順ですけれども、胆吹へ登るものが必ずしもその道をとらなければならないという約束はなく、柏原からでも、長岡からでも、幾多の登山路はあるのです。春照村《しゅんしょうむら》の上野からする登山本路をとるとすれば、ここへ出るのも決して脱線ではありませんが、とにかく、道
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