いほどの仕事をしていることは、疑いがありません。
しかし、その仕事の多寡《たか》を計算して、労銀を払い渡すという時になると、与八はいない。いないのではない、姿が見えなくなるのです。この男は自分が何時間働いた上に、自分の持つ労力は常の人の何倍に当るから、これだけの労銀を与えられなければならぬということを主張した例がないから、与えられる時の元締の計算は、やっぱり普通一人前の人夫の計算にしかなりません。
でも、苦情も不平も出ないのは、当人がその分配の席にいないからです。それで、頭割りをする役割は、当人の主張の無いのに、当人に代って割増しを主張するほどの好意はないから、常人足並みの労銀が、組の者に托して与八に向って支給されて納まってしまうのです。
それにしても、一人や二人は、与八という特種人物の力量が抜群であって、仕事ぶりに蔭日向《かげひなた》というものがないという点ぐらいは認めてやる者があってもよかろうと思われるが、それすら無いというのは、証跡がかくれてしまっているのです。
つまり、与八はその非凡な力量を以て、常人の幾倍に当る仕事をしていることは確実なのですが、その仕事は、蔭日向がな
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