のところはどうなるかわかりませんが――今のわたくしの気持は、何事を措《お》いても、ここで暫く休ませて置いていただきたいことのほかにはございません。隣国と申しましても、飛騨の高山まではかなりの道でございましょう、ましてこの大雪でございます、それは品右衛門爺さんが案内をし、屈強な北原さんと、お気の練れた久助さんとがお道連れですから、少しも心配はないようなものの、それでも時候|外《はず》れの今の時に、人の通わぬ山路を御出立なさるのはなんぼう御苦労なことでございましょうか。それをわたくしらがここにいて充分に休みたいなんぞとは申し上げられた義理ではないのでございますが、なぜかわたくしはここで思う存分、三日の間休ませていただきたい気分がしてなりませぬ。北原様、品右衛門爺様――それと久助さん、どうか右のところを悪《あ》しからず御承知くださいませ。ではお頼み申します、ずいぶん御無事に、わたくしが念じおります」
一息にこれだけのことを言いましたから、一座がまた口をあいてしまいました。なんというおしゃべり坊主、なんというませ[#「ませ」に傍点]た口上の利《き》きぶりだろうと――弁信の顔を見たままでいると
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