を見て振返る女たちの視線には、みんな多少ともに、羨望と嫉妬とを含まないのはありません。それよりもなお憎いのは、この人が、さほどの羨望と嫉妬を浴せられながら、なお冷々然として、むしろ、そういった同性たちを冷笑しつくすかのように、澄まして取合わない高慢な態度でありました。
他より羨《うらや》まれ、或いは嫉まれた時に、幾分なりとも、得意なり、慢心なりの色があるうちはまだしお[#「しお」に傍点]らしい。羨まれ、嫉まれながら、それを冷倒するやからに至っては、全く度し難いものです。重ねて言えば、人間は縹緻《きりょう》を鼻にかけるうちは、まだ可愛らしいものだが、それを頭から抹殺してかかる奴に至っては、悪魔でも誘惑のしようがない。
お銀様の態度がそれです。おそらくお銀様といえども、人の羨望と嫉視の的になる地位と空気とを、自分が感づかないはずはないのですが、それを刎《は》ね返して進む自分というものをも、自覚していないはずはありますまい。寝覚の里の渡頭《ととう》の高燈籠の下まで来て、そこに立ってつくづくと海を眺めたお銀様の眼には怒りがありました。
寝覚の里は、すなわち七里の渡しの渡頭であります。七里
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