ぶんあぶないものなんですぜ」
「ちぇッ、いやな奴だねえ」
「おばさんなら、あんな奴を手もなくこなしちゃうでしょうが、お雪ちゃんが、あんなのにひっかかっちゃたまらない」
「お前、何とかして追払ってやるわけにはいかないかえ」
「そりゃ、わたしが天井裏かなんかに潜《ひそ》んでいりゃ、まさかの用心にはなるかも知れませんがね、わたしも実ぁ、お雪ちゃんの傍にいるのが怖いんです」
「どうして」
「だって、それ、相州伝の長いやつを持った人が、お雪ちゃんの傍には附いていますからね、へたに間違うと、またいつかのように二つになって、やもり[#「やもり」に傍点]のようにあの壁へヘバリつかなけりゃなりません」
「そんな人がいるんだから、がんりき[#「がんりき」に傍点]とやらが覘ったところで、お雪ちゃんの身の上も心配なしじゃないか」
「そう言えばそうですがね、がんりき[#「がんりき」に傍点]という奴はそれを覚悟で、お雪ちゃんをねらっているらしいです、つまり、相州伝で二つにされるか、但しはお雪ちゃんをもの[#「もの」に傍点]にするか、二つに一つの度胸を据えてかかっているらしいから、それで心配なんです」
「困ったねえ
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