めきなんですよ――何万匹何千万匹! まああの数は……
驚くことはないよ、あれが八億四千の陰虫《いんちゅう》というものだよ。
まあ、八億四千!
そうだよ、女というものの五体の中には、すべてみんな、あの陰虫が巣を喰っている!
おばさんのは、それが外へ頭を出しただけなんだ。
その時、天井の節穴から、あわただしく走《は》せ戻って来たピグミー、
「おばさん、おばさん」
「何だえ」
「飛騨の高山へ行ってまいりましたがね、着物は持ってこられませんでしたよ」
「そうかい」
「わざわざ行って、手ぶらで帰るなんぞは子供の使のようで面目もございませんが、あの着物は、ちゃんとお雪ちゃんが着込んでしまってますから、手をつけるわけにいきませんでした」
「だから、そうしてお置きと言ったんだ。そうしてなにかい、お雪ちゃんは無事かえ」
「無事にゃ、無事ですけれどね……」
「あの眼の悪いお客さんはどうだい」
「元気で、夜遊びまでしていますぜ。何しろ、壺の底のような白骨とちがって、高山へ出ると、ずっと天地が広いですからね」
「そうかい、二人は仲がいいかい」
「いいか、悪いか、そんなことは知りませんがね、お雪ちゃん
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