しは利《き》きます。今晩は寝ないでも市場の関係人全体は手をわけても、その身許を突きとめない限り市場組合員は所払いとなるか、欠所《けっしょ》となるか、そのことはわかりません。
三十
その夜の――暁方のことです。
最初に宇津木兵馬が触書《ふれがき》を読んだ例の高札場のところ。
歯の抜けたような枝ぶりの柳の大樹。
がんりき[#「がんりき」に傍点]の百という野郎が、芝居気たっぷりで隠形《おんぎょう》の印を結んだ木蔭。
あそこのところへ、また以前と同様な陣笠、打裂羽織《ぶっさきばおり》、御用提灯の一行が、東と西とから出合頭にかち合って、まず煙草を喫《の》みはじめました。
東から五人、西から五人――かなりの仕出しが、舞台の中程、柳の下へずらりと御用提灯を置き並べ、その附近の石と材木とへ一同ほどよく腰を卸して、申し合わせたように煙草をのみ出したことは、この間の晩と今晩とに限ったことではなく、いつもここが臨時非常見廻役の会所になっていて、ここで落合ってから、東の奉行は西へ、西の奉行は東へ、肩代りをして一巡した後にお役目が済んで、おのおのの塒《ねぐら》へ帰る順序ですから
前へ
次へ
全433ページ中200ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング