ぼしてしまったという話。やがて笛を止めて一座が、この盲人の勘をためすために、二階の欄《てすり》のところから、いま大道を通る人は何者と尋ねてみると、盲人は足音の調子に耳傾けていたが、これは婆さんの手を一人の男が曳いて行く足音でございますが、男の方は何か気忙《きぜわ》しい心配があるらしい顔色、足どりの忙しさでよく分ります、してみると、多分、女の方は取上げ婆さんでございましょう……という返事、人をつけて見ると、手を曳いた男が言うことには、しきり[#「しきり」に傍点]が参りましたら、腰はわしでも抱きますが、とてものことに男を生んでくりゃあ有難い……と言ったので、大笑いして引返す。さてその次に通る者は……ははあ、これは二人だが足音は一人と盲人が言う、見れば下女が小娘を背負って行くのであった。さてその次に通るのは……これは鳥類だが自分の身を大事がる、なんという鳥か名は知れないが……と言う、見ると行人《ぎょうにん》が鳥足《とりあし》の高足駄を穿《は》いて行くのであった、という調子で、当らぬのは一つもない。そのうちに、初夜の鐘の鳴り渡る時分――下り舟に乗り遅れまいとして急ぐ旅人の姿が二階の灯にうつって
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