が」
と忠作は、一別来の挨拶の後にこう言って、用件の前置をしました。
 無論、この少年のことだから、単に昔の人を懐かしがって、御無沙汰お詫《わ》びに来たのではない、来るには来るで、何かつかまえどころがなければわざわざやって来るはずはない。つかまえどころというのは、何かこの機会に自分の得《とく》になるようなきっかけ[#「きっかけ」に傍点]を掴《つか》みたいから、やって来るものであることは疑いないのだが、それがこっちも一口乗っていいことか、悪い無心か、その辺は多少無気味である。
「何ですか、言ってごらんなさい」
「異人館の番頭さんに、わたしをひとつ、御紹介していただきたいんです」
「へえ、そうして、どうしようと言うんです」
「実はね……御新様、これからの商売は異人相手でなければ駄目です」
 そら来た、この若造、どのみち商売に利用の意味でなければ、得の立たないところへ御無沙汰廻りなぞする男ではない。
 そこを忠作は透《す》かさず、次のように説きたててしまいました。
 自分も、いろいろ商売に目をつけているが、どうしてもこれからは異人相手でなければ、大きな仕事はできないということをつくづく悟りま
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