ちっとも違っていなかったのだ。
「まあ、忠どんかい」
「どうも御無沙汰を致しました」
 裏木戸は苦もなく開放されて、
「どうして、ここがわかったの」
「築地の異人館で聞いてまいりました」
「異人館で……」
 さすがのお絹も、忠作のたずねて来たことが、あまりに意外であったものだから、全く面食《めんくら》ってしまったようでした。
「まあ、ともかく、こっちへお入り」
「御免下さいまし」
 郡内の太織かなんぞに紺博多の帯、紺の前垂、千種《ちぐさ》の股引《ももひき》、隙《すき》のない商人風で固めた上に、羽織とも、合羽《かっぱ》ともつかないあつし[#「あつし」に傍点]のつつっぽを着込んで雪駄《せった》ばき――やがて風呂敷をかかえ込んで、お絹に案内され、お花を活けかけている主膳の居間へ通され、きちんとかしこまったところは、以前よりはまたいっぱしませている。
 お絹は、この少年とも、少しの間、生活を共にしたことはあるのです。
 この抜け目のない金掘少年を徳間峠の下からそそのかして連れ出した。そうして二人が神田のある所で寄合世帯を持ったのも、そんな遠い昔のことではないのだが、それはおたがいに利用し合うと
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