居間から、そっと廊下伝いに出て来たところを見たというようなわけで、子供たちが納まらなくなりました。
 子供たちとはいうけれども、これは、育ちがいいといった者のみではないから、気を廻すことにかけては、へたな大人よりませたものがいくらもいる。
「おかしいなあ、殿様とよしんべえとおかしいよ」
という評判が立ってしまったのは是非もないことで、「まあ、いやなよっちゃん、殿様のおかみさんになるの?」といったようないやみはまだ罪がない分として、なかには、思い切った露骨な、卑猥《ひわい》な文句を浴せかけたり、楽書をしたりする者が出来てきたが、当人の低能娘はいっこう平気なもので、なぶられることを誇りともしないが、苦痛ともしない。いわばしゃあしゃあとしたもので、でも、主膳が出て行くと、子供たちは怖がって、表立って悪口は言わないが、眼を見合わせて三ツ眼|錐《ぎり》の殿様と低能娘とを見比べたりなんぞする。
 しかし、それもその当座だけのことで、主膳が低能娘を始終引きつけているというわけではなし、低能娘もまた殿様だけにじゃれ[#「じゃれ」に傍点]ついているというわけでもなし、やっぱり以前のように子供たち共有のお
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