ん親密な御様子ですから、こいつ占めた! と思いました。
 御新様の前ですけれど、異人は、女にのろいものですね、男は滅多に信用しませんけれど、女だというと直ぐ参っちまいます。それもそうです、男には例の尊王攘夷で異人さんの首を狙《ねら》うのがうんといますけれど、女にはそんなのはありませんからね、そこで異人は日本の女を大へん好くんです……ところが、日本の女は慾が無いんですね、そこへつけ込んでうまく異人に取入ればいいのに、日本の女にはそれだけの腹がある奴がありません、降るアメリカだのなんだの見識ばって――
 というような減らず口から進んで、どうかお絹の手で、自分をしっかりと大資本の異人さんに紹介してもらいたい、いったん異人さんに紹介してもらいさえすれば、それから以後はこっちにも自信がある、腕を見せての上で、信用を博してみせることは請合い、ぜひひとつ、この紹介を頼みたいという要領を、かなり能弁で説き立てました。
 聞いていたお絹は、相変らず一分の隙もない慾得一点張りの註文だが、これはこの若造として壺を行っている註文であって、自分としても、叶えてやっても損にならない性質のものだと思いました。
 単に手引をしてやりさえすれば、事実それから先は、どれほどのことをするかわからないと思わせられます。もう一ぺんこの若造と組んで、これを手代として仕事をやらせれば、こんどは以前のような日済貸《ひなしが》しと違い、七兵衛のように資本《もとで》なしでかき集めて来るのとも違い、もっと明るく、おおっぴらに大儲けができるのだ。次第によってはこんなのが、三井や鴻池《こうのいけ》を凌《しの》ぐ分限《ぶげん》にならないとも限らない、全く金で固まった面白くもない若造だけれども、こんなのをこっちのものにして置くのも不為めではない。
 そこでお絹は、一も二もなく、この昔馴染《むかしなじみ》の若造を、異人にうんとよく売りつけてやろうという気になって、快く頼みを引受けた上に、うんと御馳走をして帰してやりました。

         二十一

 与八と郁太郎《いくたろう》を除いた武州沢井の机の家の留守の同勢は、あれから七兵衛の案内で、無事に洲崎《すのさき》の駒井の根拠へ落着くことができました。
 その道程は、江戸までは普通の道、江戸橋から曾《かつ》てお角さんも行き、田山白雲も行った通りの船路をとったもので、天候も無事で
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