いう狡猾《こうかつ》な腹から出たのだから、むろん浮気っぽい後家さんが、子供俳優を可愛がろうというような気分であろうはずもなく、お絹は、この目から鼻へ抜ける山出しの少年を利用して、自分の番頭兼事務員としようともくろみ、忠作の方ではまた、お絹の持っている小金をやりくりして自分の足場にしようとの腹でしたから、二人の生活は飽き飽きしていたのだから、貧窮組の騒ぎや、浪士の掠奪《りゃくだつ》で破壊されるのを待つまでのことはないのでした。
その後はおたがいに何のわだかまりもなく、消息も無かったのが、今日になって、わざわざ先方から探し当てて来たのも思いがけないものだが、本来、浮気そのもののお絹は、年下の若いのにわざわざ訪ねて来られてみると、金と算盤《そろばん》のほかには目の無い若造だと知りつつも、悪い気持はしないで、かえってまた、多少の昔懐かしいものさえ湧いて来て歓迎する。
「よく、ここがわかったねえ」
「実は御新様、あなたが、築地の異人館においでなさることをね、お見かけ申しましてね、あなたが異人さんたちと深く懇意にしていらっしゃる御様子ですから、それで一つ、お頼みがあってあがったようなわけなんですが」
と忠作は、一別来の挨拶の後にこう言って、用件の前置をしました。
無論、この少年のことだから、単に昔の人を懐かしがって、御無沙汰お詫《わ》びに来たのではない、来るには来るで、何かつかまえどころがなければわざわざやって来るはずはない。つかまえどころというのは、何かこの機会に自分の得《とく》になるようなきっかけ[#「きっかけ」に傍点]を掴《つか》みたいから、やって来るものであることは疑いないのだが、それがこっちも一口乗っていいことか、悪い無心か、その辺は多少無気味である。
「何ですか、言ってごらんなさい」
「異人館の番頭さんに、わたしをひとつ、御紹介していただきたいんです」
「へえ、そうして、どうしようと言うんです」
「実はね……御新様、これからの商売は異人相手でなければ駄目です」
そら来た、この若造、どのみち商売に利用の意味でなければ、得の立たないところへ御無沙汰廻りなぞする男ではない。
そこを忠作は透《す》かさず、次のように説きたててしまいました。
自分も、いろいろ商売に目をつけているが、どうしてもこれからは異人相手でなければ、大きな仕事はできないということをつくづく悟りま
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