かなものでしたが、裏庭へ穴を掘って与八は、一括したものを投げ込んだが、その上へ萱《かや》と柴を載せて、火をつけてしまいました。
その火が、軽く燃え上ったところを、与八と、郁太郎が、静かに眺めていたのは夕方のことです。
今、おもむろに焼けつつある一括《ひとくく》りの中には、数日前、お松が発見してくれた涎掛もあれば、臍《へそ》の緒《お》もあるはずです――そのほか、与八としては片時も離せない、意義のある人たちからの記念品も、みんなそれに入っていたようです。それを与八はみんな焼いてしまいました。お浜の遺骨を持って、郁太郎を背に負って帰って来た時以来の記念の品も、みんなここで焼いてしまったようです。
それだけは取って置きなさいと、お松がいたら当然、忠告して差留めるであろうところのものまでも、与八は一切を穴に入れて、焼いてしまっているようです。記念というものは一つも残さないのがよい、と思っているからでしょう――
それが燃えつくすのを、ゆっくりと二人は坐ってながめていましたが、いよいよ燃え尽したと見た時に、与八は鋤簾《じょれん》を取って静かに土を盛りました。
その翌朝、まだ暗いうち、村人
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