かかっちゃ、からたあいねえんだから、異《い》なものだのう」
「お代官という商売も、いい商売だのう、百姓の年貢《ねんぐ》はとり放題、領内のいい女は食い放題――わしらが覚えてからでも、あの親玉の手にかかった女が……ええと、まずガンショウ寺のあのお嬢さんなあ、それからトーロク屋の女房、それとまた富山から貰うて来たという養女名儀のお武家の娘――品のいい娘だったが、あれが内実はお手がついたとかつかんとかで親里帰り、それからまた、興楽亭のおかみなあ、あれも、親玉に持ちかけたとかすりつけたとかの評判じゃ。その他芸子や酌女は、片っぱしから食い放題、町の中で、いい女と見たら誰彼の用捨無しという親玉だあ」
 この連中、かりにも、陣笠、打割羽織、御用提灯の身として、口が軽過ぎるのも変だが、こんな話を、他ならぬがんりき[#「がんりき」に傍点]の百の野郎なんぞに聞かしてよいものか、悪いものか。

         五十三

 陣笠、御用提灯、打割羽織というけれども、本来これらの連中は、生れついてのお役人の端くれではない。
 この非常の際に、代官でも手が廻らない上に、近頃、材木盗人が横行する。それはこの大災につい
前へ 次へ
全323ページ中169ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング