してしまったのは、術のようです。
この男が、本式に、伊賀や甲賀の流れを汲んでいるということは聞かないが、野郎、やっぱり、その道にかけては天性で、身体を実物以上に平べったく見せることは、心得ているらしい。
がんりき[#「がんりき」に傍点]の百が、斯様《かよう》に、柳の木の蔭で身体を平べったくしているとは知らず、その前へ順々に歩んで来たのは、陣笠をかぶり、打割羽織《ぶっさきばおり》を着、御用提灯をさげた都合五人の者でありまして、これはこのたび出来た、非常大差配の下に任命された小差配の連中に違いありません。
この小差配都合五人は、非常見廻りのために、市中を巡邏《じゅんら》して、このところに通りかかったのだが、この安全地帯の、柳の木の前の高札場の下の、つまりがんりき[#「がんりき」に傍点]の百蔵が只今、生得の隠形《おんぎょう》の印《いん》を結んでいるところの、つい鼻の先まで来て、そこで言い合わせたように一服ということになりました。
見廻りのお役目としては、三べん廻って煙草にするという御定法通りですから、あえて可もなく不可もないのですが、隠形の印を結んでいる眼前に、苦手《にがて》の御用聞
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