海を流れ着いた人なのよ、それを殿様が拾って来て、うちに置いてあるんです」
「そうですか、では外国人の大人ですね」
「ええ、ええ、大人も大人、六尺の上もありますよ、田山先生も大きいけれど、それよりずっと大きくて、眼が碧《あお》くて、髪の毛が赤いんですよ」
「そうですか、そんな大きな人が、なぜあんなに泣くのです」
「それには理由《わけ》があるのよ、おじさん、あれはなかなか赦《ゆる》してあげられない理由があるのですよ」
「へえ、何か悪いことをしたのですか」
「ええ、悪いことをしたんです」
「どんな悪いことをしたの」
「お嬢様に悪戯《いたずら》しちまったんです」
「え、お嬢さんに?」
「そうですよ、それも一度や二度のことではないのです、ですから、今度という今度は殿様もお赦しになりません」
「そうですか、そんな悪い人なんですか」
「いいえ、悪い人じゃないんです、田山先生などは、ウスノロと名を附けてばかにしているくらいですけれど、田山先生がいないとあんなになってしまいます、お酒を飲むからいけないんですね」
「そうですか、誰も殿様へ、お詫《わ》びをしてあげる人はないですか」
「誰もありません、あんまり悪いことをしたから、造船所の人たちなんかは憎がって、海の中へ投げ込んでしまおうと言ってました。そのくらいですから、ああして、本当に心が直るまで手をつけない方がよかろうということです」
「困ったものですね」
「え、こんどのことは私たちもお詫びのしようがないから、うっちゃって置くのです」
「そうですか、でも船が出来上った時は、あの人も連れて行くのでしょう」
「そのことはわかりませんね」
その時、このところにあった時計が、五ツ鳴りました。七兵衛はこの音で初めて時計に気がついて、そしてなんだか分らない顔をして時計を眺めました。
「ああ五時だ、おじさん、私はちょっと行ってまいりますよ」
こう言って茂太郎は、この室を飛び出してしまいました。
六十五
あとに残された七兵衛、お茶を飲みかけていると、急にまた例の物置の方面で、けたたましい叫び声がして、人がののしり、号泣し、容易ならぬ騒動が持上ったもののようです。
七兵衛も一度は駈け出して見ようかと思いましたが、そのうちに噪《さわ》ぎはようやく静まり、人も出て行ったようですから、また腰を落着けていると、そこへあわただしく茂
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