遠からぬ物置で、泣きわめく声。泣き疲れたのか、一時は低くすすり泣きのようにまで落ちていたのが、この一同が食卓を開くとじきに、またすばらしい声で号泣をはじめました。
 駒井は苦《にが》い面《かお》をする。
 茂太郎と、もゆる子とは面を見合わせて、くすぐったい思い入れ。
 金椎には聞えないから、平々淡々。
 食卓の調子の変ったので戸惑いをさせられた七兵衛は、この号泣でまた驚かされてしまいました。
 それでも誰ひとり、号泣者を顧みようとする者はなく、食事は頓着なしに進んで行く――

         六十四

 駒井から船を見せられた七兵衛は、その時全く別な世界があることを教えられました。
 別な世界というのは、自分が今まで、跼蹐《きょくせき》していた天地のほかに、別に自由自在な天地のあるのを、自分は気がつかなかったということです。
 今までの自分の生涯が、土の上を走っていたから、行詰りが出来る、そのとどのつまりの行詰りは、もう極まった運命のほかに何物も無いと観念をしておりましたのに、ここには全く自分の能力を不用として、生きて行ける生涯があるということを知りました。
 この船というものに自分を托しさえすれば、この自分の特徴であり、また、自分をあやまらせたところの超凡の足というものの能力が、全く無用になると共に、今まで自分の恐れかしこみ、潜み、隠れ、わなないていた魂というものが、全く解放されることを考えずにはおられません。
 全くその通り、いかに早足でも、地上を走る時には必ず行詰りがあるにきまっている。
 船に身を任せて海外へ走れば、そこには無限のにげ路があるではないか。
 七兵衛は駒井から船を見せられて、そして海外移住の説明を聞かせられたときに、自分の前途の生命《いのち》につぎ足しが出来たなとはっきり思い当って、非常な大きな喜びと、一種の希望を見出したように感ぜしめられました。
 船! 船に限る。
 七兵衛は早くもこういうふうに宗旨変えを、心のうちで誓ってみました。
 そしてまた、陣屋へ戻って来ると、暫しあって、かの物置で号泣の声が聞えます。どうも不思議でたまらないが、そうかといって、それを問い質《ただ》してみるのも失礼なように感じました。
 ともかくも今日は休息するようにと、七兵衛は客間へ案内されて、そこに一人で暫く止まっておりました。
 休んでいると、やがてコトコトと
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