町で泊って、翌日はもう洲崎着。
 駒井の陣屋をたずねると、直ぐにわかる。来意を告げると直ちに会える。
 七兵衛は、そこで、はじめて駒井甚三郎に対面の挨拶をしました。
 世が世ならば、土下座をしても、対談はかなうまじきはずなのを、無雑作《むぞうさ》にその室に通されて、向き直って椅子に腰をかけさせられて、七兵衛がこそばゆい心地。
 椅子なんぞに腰を下ろしたことはないのに、こういった人品と当面して、会話を取りかわすなんぞということは、今までに経験のないことでした。
 それは神尾主膳のような人には、ずいぶん勝手な立居振舞をしたりしてもいいように出来ているが、この人との対面は、調子の違うこと夥《おびただ》しいと、さすがの七兵衛の腰がきまらないようです。
 そうして、せっかく、近くすすめてくれた椅子を、わざと自分でしりぞけて、絨氈《じゅうたん》のようなものが敷いてある板の間へかしこまってしまいました。
「それは、いけません、おかけなさい、こういう室では、腰をかけて話さないと、かえって失礼に当るものです」
 駒井から説かれて、七兵衛がおそるおそる、また椅子に取りついて、それを与えられた距離よりは、ずっと遠くへひっぱって行き、その上へちょこなんと腰をかけたものです。
 例によって、金椎《キンツイ》が出て来て茶煙草をすすめる。七兵衛はお辞儀をするばかり。
 そこで七兵衛は、お松からの手紙を取り出して恭《うやうや》しく駒井に捧げる。
 駒井は、その場で封をきって、サラサラと読み流し、
「よくわかりました、どうも御苦労でした。お前も、お松のいるところと同じ土地の人ですか」
「はい――二三里隔たっておりますが、まあ、同じ土地といったようなものでございます」
「いや、何かと、家の者共がお世話になります、拙者も子供のこと、お松のこと、絶えず気にかからないではないが、何を言うにも今は閑散の身で、かえって多忙なため、沙汰無しでいました、そのうち、あれを呼び寄せるか、こちらから使を出すか、どちらかせねばならぬと思っていたところでした」
「お松という子は、ふとした縁で、私が世話をして来たこともございますが、あれはたしかな子でございます、あれに預けてお置きなされば心配はございませんけれど、若様のためには親御様のお手許《てもと》で御養育なさるのが本当かと存じます」
「それも考えないではないが、今のところ、
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