「はい」
「沢井の机の若先生は、今どちらにおいでになりますか」
「竜之助様ですか」
「はい」
「あの人はどこにおいでなさいますかねえ」
「奥様は……」
「奥様というのは?」
「あれ、その、お浜様といって」
「ああ、あのお浜様か、ありゃ、江戸でお死になされた」
「おやおや、それはお気の毒な」
「気の毒なことをしましたよ」
「お子さんは……」
「お子さんというのは、あの郁太郎《いくたろう》さんのことだろう」
「ええ、郁太郎さんと申しましたかね」
「あれは今、おたっしゃで、沢井におりますよ」
「そうですか、お父さんも、お母さんも、おいでなさらねえでは、さだめて、不自由なことでしょうねえ」
「それでも、お松さんが世話をしてくれるから助かります」
「それから、和田の宇津木様はあれからどうなりましたか」
「あそこもいけませんねえ」
「文之丞様があんなにおなりなすって、あとはどうなりました、お江戸へ出ておしまいなすったそうですね」
「え、え」
「文之丞様の弟御に兵馬様という方がありましたが、あの方は時々お見えになりますか」
「あれから一遍も、こっちへは帰って来られねえようですよ」
「机の大先生《おおせんせい》は?」
「とうの昔になくなりました」
「おやおや、それはお気の毒な」
「机のお家も、宇津木も、どっちもいけませんが、机の方はお松さんがよく郁太郎様を世話しているし、宇津木の方も兵馬様の代になれば立ち直ることでござんしょう」
「お松さんという子は、どこの人ですか」
「お松さんは江戸の人ですよ」
「机のお家の御親類ですか」
「親類ですかどうですか、そのことはよく知りませんが、お松さんはいい人です、あの人がいる間は、わしもこの土地を離れられませんねえ」
「そうですか、お前さんはお松さんと仲がいいかい」
「そりゃ、お松さんは無ければならない人になっていますよ」
「もし、そのお松さんが、江戸へ出るとか、他国へ行くとかすれば、お前さんはどうしますね」
「その時は、わしも一緒に行きますね、お松さんがお嫁入りするようなことになれば、わしは下男としてでもあとをついて行きますが、あの人はお嫁入りなんぞはしないでしょうと思います」
「では、お松さんという子が、この土地にいつく限り、お前さんもこの土地を離れないのだね」
「ええ、その通りです」
「お松さんは、ほんとうにこの土地にいたがりますか、よそへ
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