それをこなして、冬籠《ふゆごも》りの用心をする――ここから青梅の裏宿まで運ぶのはかなりの距離はあるが、それを自分ひとりでこなしては、自分ひとりで、或る時は手車を用いたり、或る時は背中に背負ったりして持ち運ぶ――
 男やもめの七兵衛さんは、よくあれで辛抱して稼《かせ》いでいられる、とあたり近所の人が不思議がる。
 豊太閤伝来の千枚分銅に目をかけて、東西を走《は》せめぐる七兵衛と、このお百姓七兵衛と、どこが別人で、どこが同人か、ああしている瞬間は怪盗七兵衛で、こうしている瞬間は百姓七兵衛――麦飯に、沢庵に、梅干の面桶を傾けて、それから小樽の水をグッと飲み、暫く昼休みの体《てい》で煙草をのみにかかりました。
 あたりの山林はいよいよ静かなものです。冬木立昔々の音すなり、と古人の句にある通り、林の静かなるところに、本当の静かさというものが味わわれる。
 ひとり煙草をのみながら、山林の静かな樹に七兵衛の平和な面《かお》の色――
 これを、やや久しうすることあって、遥かに山林の外で犬の吠ゆるのを聞きました。
 まもなく、一頭の大きな犬が走って来るのを認める。それは山林深く犬の走るのを見ることは珍しくはない。ただ、その犬の真黒くして、大きなことが目に立つ。
 七兵衛は、その犬の近づいて来るのを無心に注意している。
 やがて、その犬の後ろから、多数の犬が現われたのを見る。
 五頭、六頭、十頭、あんまり数が多いものだから、少しく異様の目を以て見る。
 犬は見えたが猟師は見えない、犬の飼主というものも見えない。
 黒い大きな犬が、七兵衛の方へと、おもむろに歩んで来る。群犬がそれに従うもののように、周囲から群れて来る。
 黒い大きい犬が、七兵衛の真向いに来て、はたと歩みをとどめて、七兵衛の面《かお》を見る。
 七兵衛もその犬を見る――両個が面を見合わせる。犬はそれより以上に進まない。七兵衛は、はて見たような犬だと思う。
「あ!」
 七兵衛が思わず立ち上る。
 犬が一声高く吠える。
 だが、その吠える声になんらの険難《けんのん》はありませんでした。それは自他の警戒のために吠ゆるのではなく、むしろ驚異のために吠えたようなものです――
 一声吠えただけで犬は、七兵衛の面をつくづくと見ている。
「あ!」
 七兵衛の方で狼狽《ろうばい》する。
 彼は当然、この犬が自分に向って、のしかかって来るもの
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