いちゃわかりませんね」
「そうだ、他と比較してみなくちゃ、すべて物のねうちというのはわからない」
「そんなどころじゃございません、この土地では、梅の木を邪魔にして、伐《き》り払ってしまう家が多いようですね」
「それだ、わしも時々、出かけて見ると、あの枝ぶりの面白い老梅の樹を、むざむざと伐っているから、何にするのだと尋ねると、家が日蔭になって邪魔になるから伐って薪にすると言っていたが、さてさて、物の冥利《みょうり》を知らぬ話だと思って、つくづく意見をして来たことだがね、わしの意見もなかなかわかっちゃくれまい」
「そうですね、年々、梅の樹が減ってしまうようですね」
「名物がなくなってしまうのだ」
「惜しいことでございますね」
「惜しいことだ。すべてな、与八、物がその土地の名物とまでなるには、その土地に備わる天分というものがあって、最初にその種を蒔《ま》いた人は、よくその天分と、地味とを見分け、その後、代々容易ならん苦心が積み重なって、ようやく名物となるのだ。それを孫子に至ると、すっかり忘れてしまって、一時の目先だけで新しいものと取替える、それがやがて取返しのつかぬことになる」
「そうでござんすかなあ」
「そうさ、わしはお百姓でないから、地味のことはよくわからんがの、この土地は陽を受けているから桃がよく育つ、川向うは陰だから、それで梅の質に合っている、それを見込んで昔の人は、土地にかなうような苗を植えつけたものだ。これから少し西へ出ると柚《ゆず》がいいな。この土地は、山間《やまあい》の石のある地味が、柚というものにかなっているらしい。これから二三里下ると、柿にいいところがある。だから、よく地味に相当するものを植えつけておくと、知らず識《し》らず、それが名物というものになって、他の土地では見られない風味というものが出来てくるのだ。この川向うの梅なんぞも、たしかにその名物の一つなのだ。その梅が、一本でも減少するということは、心細いもんだよ」
「このごろは、梅を植えるより桑を植えた方が割がいいなんて、みんな桑畑にしちまいたがるようです」
「それだ――桑を植えて、蚕《かいこ》を養って、絹を取れば、それは今のところ、割がいいかも知れないが、末に至って、どうなるものかわからない。桑がいいから桑、百合《ゆり》がいいから百合、除虫菊《のみとりぎく》がいいから除虫菊――いいものに移るのはい
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