が八尺一寸、まわりが六尺五寸、鱗《うろこ》が一枚七寸五分から六寸五分……耳が一尺七寸五分といった調子で、それに準じて、一枚としてムクを使ってないのはない」
「本当にムクなら大したものでござんすが、割ってみなけりゃ何とも言えますまい、金ムクと思って、中からあんこ[#「あんこ」に傍点]が出たりなんぞしちゃあ、あーんのことだ」
「つまらない洒落《しゃれ》を言うな、あれはみんな本物だ」
「どうですかね、あなただって、見本を一枚取寄せて、削って御覧なすったわけでもござんすまい。それにあの通り、金網が張ってあるじゃござりませんか」
「あれは、例の柿の木金助が取りに行くようになってから、あの金網を張ることにしたのだ」
「へん、そうじゃござんすまい、鳩が巣を食ったり、野火の燃えさしをくわえて来たりなんぞするものですから、火事をでかすとあぶないから、そこであの金網を張ったんだと、こちとらは聞いておりましたよ。まあ、何と先生たちがおっしゃいましても、がんりき[#「がんりき」に傍点]はやりませんよ、はい、腰ぬけとおさげすみになっても、苦しうございません」
「意気地なしめ!」
「へ、へ、へ、その辺は意気地なしで納まっていた方が無事でございますが、納まっていられねえところにがんりき[#「がんりき」に傍点]の持って生れた病というやつがございますから、その方でたんのうを致したいと、こう考えています。金の鯱はもう満腹でございますが、実のところ、がんりき[#「がんりき」に傍点]は、そのかたかたのほうにはかつえ[#「かつえ」に傍点]きっておりますよ。先生方は先生方で、何ぞというとがんりき[#「がんりき」に傍点]を煽《おだ》ててはダシに使おうとなさるが、がんちゃん[#「がんちゃん」に傍点]の方はまたがんちゃん[#「がんちゃん」に傍点]の方で、旦那方の御用の裏を行って、いいことをしてみてえという野心があればこそでござんすな。再三申し上げる通り、金の鯱は、こうして目で見ていてさえげんなりしてしまっていますから、どうぞおしまい下さってお慈悲にひとつ、そのかたかたのほうで、がんりき[#「がんりき」に傍点]のお歯に合うところを一つ呼んでいただきたいもんで……実はお恥かしい話ながら、こう見えてもがんりき[#「がんりき」に傍点]は、江戸方面は別と致しまして、京大阪のこってりしたのにいささか食い飽きの形ですが、まだその
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