う、さまでの大音ではなかったが、キリキリと歯ぎしりする音までが、お角の耳にまで聞えたようです。
 それから後、走せ加わった都合五六名ほどの者が、
「僭上者《せんじょうもの》、無礼者、憎い奴、身の程知らず、これで思い知ったか、岡崎武士の手並!」
 寄ってたかって、骨髄に徹する恨みのほどを乱刀の下に、柄《つか》も、拳《こぶし》も、透《とお》れ透れと、刺しこむのです。
 残忍至極だが、昨日の結果としては、是非のほど、何とも言えない!
 これは実に瞬間の兇事でしたが、次の瞬間には一行の駕籠屋が逃げ出すこと、昨日の鼻っぱしの非常に強かった身内の者と、宰領と、荷持が、度を失って逃げ惑う。
 それを追いかける者――
 その時、後《おく》ればせに走《よ》せつけた見慣れない大男――刀を横たえ、息せききって来合わせたのをお角が見ると、ははあ、相撲取だと思いました。
 相撲取だ――とすれば、この一行の贔屓《ひいき》相撲が心配のあまり、あとから追いついて来たのか、そうでなければ、一緒に護衛の任に当って来たのが、一足後れたのか、ともかくも、こちらの味方でなく、先方の後詰《ごづめ》の形で現われたということをお角が見て取っていると、右の相撲は刀を抜いて、ひとり立っている美少年の方に向い、一人は手に携えていた太い棒をグルグルと振り廻して、逃げ惑う味方を追っかけている武士方に立向う。
 美少年に立向った力士は、一太刀合わせるまでもなく、小手を切り落されて、よろめきよろめき後へさがるところを、小溝へつまずいて、後ろへ倒れたまま、パッと水を飛ばして、姿は再び現われないから、多分、溝が狭いのに、身体《からだ》が大きかったものだから、すっかり食い込んで、動きが取れないものと見える。
 一方、大木を振りかざした一人の力士は、五人の行手にふさがってみたが、この五人の武士たちの勇気は、昨日の川原の光景とは打って変った鋭いもので、かいくぐり、かいくぐりして、とうとうその力士をも乱刀の下に仕留めてしまう。
 さて、親方を見殺しにして逃げた三人の者、その一人は親方の養子――他の一人は宰領、他の一人は荷かつぎ。
 美少年ひとりだけが現場に残って、あとは、透かさず三名の恨みの片割れを追撃しに出かけて行ってしまいました。
 まもなく、彼等が、一人の若い男をズルズル引きずって来るのを見る。
 それが、昨日、親分にも負けない喧嘩
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