かってきたように思います。
 赤坂を出て宝蔵寺まで来た時分に、お角は駕籠《かご》の中から、景気のよい旗幟《はたのぼり》を見て、グッと一つの興味がこみ上げて来ました。
 ははあ――興行だな、芝居ではない、相撲だな、この景気で見ると、まんざら田舎相撲とも思われない、江戸か上方、いずれ大相撲の一行が、この辺で打っているのだな――
 まもなく、櫓太鼓《やぐらだいこ》の勇ましい音。お角の鼓膜にこたえて、感興をそそり、腕がむず痒《がゆ》いような気持がしました。
 天性、興行師に出来ているこの女は、見物心理として感興を湧かされるのではありません。いわば剛の者が、戦陣の前に当って武者ぶるいを禁ずることができないように、いやしくも、興行物となってみれば、大きければ大きいように、小さければ小さいように、都会ならば都会のように、田舎ならば田舎のように、技癢《ぎよう》に堪えられないで、その物音を聞くと武者ぶるいをするところの病があるのです。
「おや、大相撲らしいが、どんな面《かお》ぶれだろう」
と、旗幟の文字を読んでみると、その真先に眼に落ちた一つに、
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「大関、舞鶴駒吉――」
[#ここで字下げ終わり]
という白ぬきの大文字を見た途端に、ツーンと頭へ来てしまいました。
「はあ、舞鶴駒吉――あれからどうしているかと思ったら、こんなところに来ていたのかねえ」
 勧進元は誰がやっているか知らないが、乗込んで見れば存外知った面で、おたがいに、これはこれはという段取りかも知れない。
 茶屋の前で、ちょっと駕籠を休ませて、
「お嬢様」
と後ろを顧みて言いました。
「はい」
 お銀様が、垂《たれ》を上げない駕籠の中から返事をする。
「相撲はお好きでございますか」
「好きでもありませんが、嫌いという程でもありませんよ」
「田舎にしては、ちょっと珍しい相撲がかかっていますから、のぞいてごらんになる気はございませんか」
「お前さんが見たいと言うんなら、わたしも一緒に参りましょう」
「岡崎泊りには時間がたっぷりございますから、なんならひとつ、相撲を見てやりましょう」
「お前さんのよいように」
「では、お嬢様、これから駕籠を下りて参りましょう、石河原ですけれど、そんなに遠いところではありませんから、おひろいでおいで下さいまし」
 お角が先に出て、案内に立ちました。
 相撲場は、直ぐに眼の前の
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