「一枚描いて下さらんか」
「御希望なら、描いて上げてもいいです」
「なんでしたら、わしの屋敷へおいで下さらんか」
「おたずねしてもよいが、どちらですか」
「相馬です」
「相馬――相馬中村ですか」
「そうです、これから、北へと測量して行って相馬へ行くのですが、相馬で仕事が終るわけではありません、屋敷は相馬にあるけれど、相馬を通り越して、もっと遠くまで行くのですよ」
「ははあ、家門を過ぐるとも入らず、というわけですね」
「いいえ、家門を過ぎれば立寄って、妻子をよろこばせます。どうでござるか、先生、相馬はさまで遠くないところですから、我々と同行して下さるまいか」
「ははあ、それは至極、都合のよい話のようですが、遠くないといっても相馬ですから、どのくらいの里数と時間とを要しますか」
「左様――おおよそ五十五里――まず六十里足らずと思えばようござる、日に十里ずつの旅をしてかれこれ五日」
測量師の言うことだから間違いはあるまい。それを聞くと、白雲も少し考えて、
「この海岸を、北へ北へと行くんですな。途中見るところがありますか、いい景色がありますか、名物といったようなものが……」
「左様――海岸の景色といっても大抵きまったようなものでござるが、大洗、助川、平潟《ひらかた》、勿来《なこそ》などは相当聞えたものでござんしょう」
「ははあ、勿来の関……なんとなく意をそそられます」
「お気が向いたら、ぜひ、お出かけ下さい、拙者宅に幾日でも御逗留《ごとうりゅう》くだされて、幾枚でもお描き下さい」
相当の絵師と見定めてから、先生号で呼びかけ、その先生を自宅へ招じて、何枚でも描かせようとまで働いて来たのは、隅に置けないところがあるとおかしがり、
「海岸の風景のほかに何か、名物、或いは、画の題になるものがありますか」
「左様でござるな、この海岸で名物といっては、大洗に磯節というのがござり、海では、さんま、鰹《かつお》、鯖《さば》といったものが取れ、山には金銀を含むのがあり、土では、こんにゃくも取れ申す」
実際家だけに、相当具体的に答えてはくれるが、さんまや、鯖や、こんにゃくでは、画題として、あんまり感心しないと、白雲が考えていると、測量師は附け加えて、
「相馬へ行くと、馬がたくさんいる、生きた馬が放し飼いにしてござるが、あれは絵になりませんかな」
「なりますとも」
ここに至って、白雲は
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